薬師如来の正式名は、
薬師瑠璃光如来といい、また「
医王善逝」、大医王仏とも呼ばれる。
薬師は文字通り「医薬の先生」という意味で、病気を治す功徳のある仏としての、この如来の性格を端的に表している。
瑠璃は、金、銀、
玻璃(水晶)、
車渠(貝の一種)、
珊瑚、
瑪瑙とともに七宝のひとつとされ、いわゆるエメラルド、アクアマリンといった緑色、青緑色の宝石、またはラピスラズリをいう。したがって瑠璃光とは、その宝石のような美しい青色、緑色の輝きを意味している。
阿弥陀如来の仏国土が西方極楽浄土であるのと対照的に、薬師如来の浄土は、
東方浄瑠璃世界とされる。古代インドの人々は、西の地平線に沈みゆく夕日の美しさ、安らぎの中に阿弥陀如来の浄土を夢見たのとともに、夜明け前の東の空の澄み切った青さ(浄瑠璃)に清らかな仏様の国を思い描いたに違いない。そして、早朝の新鮮な光と風のなかに、薬師如来の功徳である心身を回復させる力を敏感に感じ取ったのではないだろうか。
薬師如来は、浄瑠璃世界に日光、月光の両菩薩を脇侍とし、
宮毘羅、
伐折羅、
迷企羅、
安底羅、
頞に羅、
珊地羅、
因達羅、
波夷羅、
摩虎羅、
真達羅、
招杜羅、
毘か羅という名前の十二神将を眷属として住まいするという。
日光・月光の両菩薩は、浄瑠璃世界の方角である東の空に昇る太陽と月とを象徴したものであることは言うまでもない。十二神将は『薬師瑠璃光如来本願功徳経』に説かれる護法神で、薬師如来の信者を護るとされる。十二という数字については『薬師瑠璃光如来本願功徳経』に説かれる薬師如来の十二大願に基づいていると考えられる。また、十二支(年)・十二ヶ月・十二時などと結び付けられ、十二神将は常に止むことなく薬師如来の信者を守護するとされている。なお十二神将は、それぞれ十二支も配されて、
子神、
丑神などと呼ばれ、冠に動物を子載く像が作られた。
薬師如来の信仰は、病気平癒を願う人々によって隆盛になってきたが、これは十二大願の第六願に、もしも衆正が身体にさまざまな障害があったり、種々の病苦に苦しんでいたならば、薬師如来の名号を聞くことによって障害は消え去り、病気も平癒すると説かれていることによる。また第七願に衆正が病気に苦しみ、医薬もなく家族もなく、家も財産もない苦しみのなかにあっても、薬師如来の名号をひとたび聞いたならば、さまざまな憂いは消えるとあることも薬師信仰の根拠となった。